小石川植物園

連休後半はそれなりの予定をたてていたのだけれど、都合によりすべて変更。
そしてふと思い立って小石川植物園へ。
傾斜地に展開する植物園は門を入るとすぐ広い坂道で、夏日の炎天下、坂を登りきるとアールデコな植物園本館が。
ニュートンのりんごの接木。
わりとがっしりした幹に、淡く色づいた花がすこしだけ咲き残っていた。
ここに来ることを思い立ったのは、はるか昔に見た映画「外科室」でこの小石川植物園が出てきたからだった。鮮やかな躑躅の緋色の印象がいまも強く残っている。
時あたかも5月初旬。躑躅の花盛りでは。
そう思って出かけてきたのだ。
実際には花の時期は少し前だったようで、散りかけの躑躅が多かったけれど、それでも十分堪能した。こんなに種類があるなんて、知らなかった。
ツツジ園を過ぎると、風景が一変。
見上げるような大木が枝を伸ばす様子に、なぜかモスクワの郊外のようだと思った。スズカケノキの白い木肌に、ロシアの白樺を連想したのかもしれない。
シシュキンの絵画の中に迷い込んだみたいだ。心の赴くままに木立の中をあちらへこちらへ。
かさりかさりと枯葉を踏んで歩く。
カリンの林を過ぎて、杉木立へ。
ここ、東京?
植物園の北の端に近い杉林のあたりには人影もない。
風が吹きわたって喬木の枝が揺れ、なにかを叩くかのような葉ずれの音がする。
心細い。
やがて前方の木の間にちいさな屋根が見え、人の声が聞こえてきた。
四阿があるのだった。
四阿からは眼下に躑躅の重なる斜面とその向こうに日本庭園の池を望む好風を収めることができる。
しばらく脚を休めようといったんは腰を下ろしたものの、躑躅に誘われてまたすぐに立ち上がり、急な坂道をとことこ降りる。
躑躅の坂を降りればそこは沢の風情。
石の橋を渡ると広々とした明るい庭。
ここ、東京ですよね…
ビルがまったく視界に入らない。
山手線内にもまだこんな場所があったんだ…
池に渡された藤棚の橋。
手前の躑躅が門のよう。
藤棚の橋を渡り、青い実をつけた梅の林を通り過ぎる。と、眼に映る風景は、同じ水の景色ながら、整えられた庭園から次第にどこかの山あいに点在する湖沼の雰囲気へと変わってくる。
静かな水面に枝先を浸す大木。
人の声が遠い。
閉園時間をだいぶ過ぎて、ようやく門を出る。
歩をすすめるごとに変わる景色に夢を見ていたかのよう。一日いても飽きない場所だ。

東京寫眞帖

東京風景。 昭和の名残、ときどき現代。

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